ぐて書き 第三期

良いところも悪いところも全部ひっくるめて自分なんだから ここにぐて書きして記憶を残しておこう

姿なき影の重み

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日頃の疲れもあったのだろうか、珍しく休日の昼間に眠くなってしまった。

畳んだ布団を枕にして毛布を被って眠りに落ちていた。

軽い睡眠だったんだろう。ぼんやりとした意識があった。

目覚めてはいないのだけれど感じ取ることができる。

 

誰もいるはずのない部屋。

そのはずだったんだけど、足元を誰かが横切る。

たしかに質量を感じたんだ。あれはどう考えても人が歩く重み。

そしてそれは僕の横に枕を置く。あるはずのない枕を置いて横になっていた。

何か言葉を交わしたのかもしれないが、もう忘れてしまった。

やり取りの後、それは僕の上に覆いかぶさってきた。

乗っかる感じだったが、物体がないものだから沈み込んでくる。

僕の体に溶けるように沈みこんできた。

手足がじんわりと痺れだし、金縛りに掛かったみたいに動けなくなっていくのがわかる。

恐怖を感じた僕は声を発して縛りから抜け出す。

 

目が覚め、夢とは違う感覚を味わっていたのだと思った。

誰もいないが、誰かいたんだ。姿は見えなくても女だとわかった。

そこにいたであろう誰かに話しかけてみる。

「今、そこにいたよね? 別にいいんだけど、ちょっと苦しかったよ。金縛りみたいで怖かったよ。

何か伝えたい事があるのなら聞くし、どこか連れてって欲しいなら行くよ。話したいなら話そう。

ここに紙と鉛筆置いておくから何なりと書いておくれ。僕はもう一回寝るから」

そう言ってまた目を閉じる。

 

声に発しても心で思っても一緒かなと思ったので、口に出さずに話しかけてみた。

『女の子だと思うけど、僕に見えるように実体化できるのかな? イメージした通りになれるのなら、怖いのはなしでお願いね。ビビるから』

それからの眠りには現れなかった。

紙には何も書かれていなかった。

 

夜になり、いつも通りに眠りにつく。

うっすらと意識だけが目覚める。昼間と似た感じだ。

何となく昼間の誰かがやってきそうな気がした。

僕は左向きになりその子を誘ってみた。

ふんわりと気配を感じたからいるんだろう。

僕の背中にくっついて眠るように優しく触れていた。……様な気がした。

昼間みたいな恐怖はなく、入り込んでくる事はなかった。

 

どうしてだろうか、女の子と添い寝している気分になった。

まぁ、女の子なんだろう。

見えもしなけりゃ触りもできない。……なのにそう思った。

僕は上を向いて腕枕をしてあげた。

それから静かに話をしたと思う。こちらからの一方的な会話だったと思う。

心で喋っている感覚だった。

だんだんと意識が強くなって、心の声がいつもの声に変わっていったのを覚えている。

表現に難しいが、心で喋れなくなっていく感じだ。

トンネルを抜ける時の印象に似てるかもしれない。

それと同時に腕の中にいた存在の重みが軽くなっていった。

 

完全に目が覚めてしまう。

横には誰もいない。いた形跡も何もない。

時刻は午前三時を終えようとしている。

 

誰もいなかったし、僕はひとりで寝ていただけ。

……とは思えない。